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ロケハンから帰った後にも画角チェック!
Scaniverse と set.a.light 3D でデジタルロケハン・デジタルテストシュートを考える #BONSAIDEV

BONSAI DEV
写真
ロケハン
テストシュート
3Dスキャン
set.a.light 3D
Scaniverse
3Dスキャンで再現された室内空間にアンブレラ付きライトや赤いカメラが置かれているソフトウェアの画面。手前には黒髪の女性キャラクターが頬に手を当てて座っており、撮影スタジオのようなセットアップが見える。

こんにちは。
今日から #BONSAIDEV シリーズをスタートします!
#BONSAIDEV シリーズでは、技術検証や実装したものの紹介などを行っていく予定です(いわゆる技術ブログ的な感じ)。

初回は、「デジタルロケハン・デジタルテストシュートを考える」です。
「現場から帰った後でも、簡単に様々なアングル・画角を試せる方法」
について考えたり、ツールを試しました。
それでは、始めましょう!!

<忙しい人のためのまとめ>
↓こんな感じで、スキャンデータをset.a.light 3Dに持ち込み、アングル変えたりライティングをいじったりしました。

目次

  1. 通常のロケハンを考える(Cadrage)
  2. Scaniverseで現地を3Dスキャンする
    1. Scaniverseで現地をスキャンする
    2. Scaniverseからデータをダウンロードする
  3. set.a.light 3D で3Dスキャンした現場を使う
    1. set.a.light 3D にスキャンデータをインポートする
    2. インポートしたスキャンデータを用いてアングルを試す
  4. 気になった点
    1. Scaniverseのスキャン精度
    2. SALの操作性・仕様上の問題
  5. おまけ:屋外シーンについて
  6. まとめ・感想
  7. あとがき(注意点)

1. 通常のロケハンを考える(Cadrage)

いきなり本題には入らず、一般的な話から始めたいと思います。
弊社でも日常的に使っていますし、多くの人が使っているであろう「Cadrage」を紹介しながら、通常のロケハンを考えてみたいと思います。

Cadrageとは何か、一応説明しておきますと、下のスクショのように、カメラ設定(アスペクト比・レンズ焦点距離等)を決めた状態で仮撮影をして、ショットリストも作れるというアプリです。

黒い服を着た男性が椅子に座り、複数のモニターが並んだデスクの前でカメラの方を見ている。室内の一角を映した写真を撮る際のCadrageのスマホ画面スクリーンショット。

Cadrage使用中の画面アスペクト比やレンズ焦点距離を指定して検証できるのがありがたい

Cadrageの具体的な使い方自体等は既に情報が出ているので、特に触れませんが、代わりに、Cadrageを使うシチュエーションを考えたいと思います。
Cadrageを使う場面としては、基本的に、
・現地にいる時に・現地で色んな画角
・レンズを試して・現地でカメラリザルトを確認して決める
(または、後で確認・決定できるように多くのパターンを作っておく)
という流れだと思います。

この使用方法においては、Cadrageはとても素晴らしいのですが、できないこともあります。
それは、
・後から別アングルを確認したい
・後から別のレンズを試したい
というように、現地を離れて、後で別の内容を確認するということです。

というわけで、今回は
「後からでも簡単に様々なアングル・画角を試せる環境」
を作ってみたいと思います。

2. Scaniverseで現地を3Dスキャンする

後から別アングルで・別レンズで確認できるようにする、と言ったら真っ先に思い浮かぶのは3Dスキャンです。
というか、現地を3Dスキャンさえしておけば、どうにかなりそうですよね?

最近は、iPhoneにもLiDARが搭載されていたり、NeRF〜Gaussian Splattingといった技術も出てきて、色々なスキャンができるようになりました。

今回は、上記の記事でもオススメされている「Scaniverse」を使って現場を3Dスキャンしていこうと思います。

2.1. Scaniverseで現地をスキャンする

Scaniverse自体の詳細な使い方は、公式サイト等をご参照ください。

本記事では、弊社オフィスを例にスキャンしてみようと思います。
屋外を試さないのか?という点が気になる方は、後で「5. おまけ」を見てみてください。

まずは、Scaniverseアプリを開いて、「メッシュ」を選択し、「大きなオブジェクト/エリア」を対象に選びます。そして、LiDARのレンジを設定し、スキャン開始です。

スマートフォンのLiDARスキャン画面。画面中央に2.5mという測定レンジが表示され、背景にソファと簡易キッチンが見える。

スキャンして、ひたすら赤いエリアを消していく

部屋を一通りスキャンすると、処理モードの選択が出てくるので、「エリア」を選択して処理を実行し、終了です。

3Dスキャンによる部屋全体のプレビュー。壁や家具が立体的な点群またはメッシュで再現され、空間の形状がわかる。また、スキャンアプリの処理モード選択画面でもある。「スピード」「エリア」「ディテール」と3つのモードが表示されている。

スキャンした部屋がこんな感じ

2.2. Scaniverseからデータをダウンロードする

この後、set.a.light 3D(SAL)というアプリにデータを移行するので、SALで読み込み可能なデータ形式でダウンロードする必要があります。
アプリ上では、「共有」ボタンを押すと、「モデルのエクスポート」ボタンが出てくるので、そこからモデルを出力します。

「無題のスキャン」と表示された共有画面。リンクの共有やSketchfabへの投稿、動画作成、モデルのエクスポートなどのオプションが並んでいる。

「共有」から「モデルのエクスポート」を選択

テクスチャも必要なので、ここではOBJ形式でエクスポートし、自分のPCに共有します。

3. set.a.light 3D で3Dスキャンした現場を使う

さて、Scaniverseでスキャンしたモデルデータが手に入りました。
次に、このモデルデータを set.a.light 3D に取り込み、ロケハン・テストシュート的に撮影のアングルを探っていきましょう。

3.1. set.a.light 3D にスキャンデータをインポートする

まずは適当に部屋を作ります。
今回はオフィスの大きさに合わせるため、Medium Roomを選択しましたが、自分でサイズは変更できるので気にすることはありません。

次に、アプリケーション下部にあるタブのうち「MY LIBRARY」を選択します。
すると、「Import」ボタンが出てくるので、クリックすると、モデルファイルの選択に移ります。

3Dライティングソフトの画面。大きさ6m×7.5m×3mの長方形ルームプリセットが表示され、中央に赤いスタンド状のオブジェクトが配置されている。

MY LIBRARYからモデルをImport

iPhoneからPCにデータを共有すると、.zipファイルで共有されているのであらかじめ解凍しておきます。
解凍後のフォルダにいくと.objファイルが存在しているのでこれを選択します。

objファイルを選択するデータフォルダのスクリーンショット。

解凍済みのフォルダに移動し.objを選択

すると、SALにモデルが読み込まれ、寸法の確認となります。
※ 場合によっては、おかしい寸法で読み込まれるので、その際は.fbxファイルなど別のファイルで読み込んでみたりして、適切な寸法が出てこないか確かめ、その値を参照すると良いでしょう(「5. おまけ」ではそうなった)。

3Dスキャンデータのプレビュー画面。部屋が立体的に再現され、幅7.43m、奥行き4.48m、高さ5.02mの寸法が数値で示されている。

モデルの寸法確認

モデルがインポートできたら、Medium Roomにそのモデルを配置します。
向き等を調整して、扱いやすい状態にしたら下準備は終了です。

ライティングソフト上で読み込んだ3Dスキャンモデル。部屋の一部が茶色い壁面として再現され、左パネルには位置やサイズを調整するTransform設定が表示されている。

モデルを読み込んだ直後

スキャンデータの下準備が終わったら、SETLISTからロックをかけておくと、その後の操作で不便が少し減らせます。

set.a.light 3Dのソフト内のウィンドウのスクリーンショット。SETLISTが表示されている。

アプリウィンドウ右下のSETLISTからスキャンデータはロックしておこう

3.2. インポートしたスキャンデータを用いてアングルを試す

さて、データのインポートも終わり下準備ができたので、実際にSALで遊んでいきましょう。
(SAL内でグリグリ動かしてる様子は動画を参照)

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SALのスクショ画面スキャンしたオフィスの中に、デジタルのモデルを配置してます。
ここではスキャンした椅子に座らせています。

また、SALと現場でCadrageを使った撮影結果の比較はこちらです。

左側に黒髪の女性キャラクター(オレンジ色のシャツと黒のジャケット、短いスカート)が座り、右側に黒い服を着た男性がデスクチェアに座っている2枚を合成した写真。女性はCGモデルのような印象で、男性の背後には森の風景が映る複数のモニターがある。

SALとCadrageの撮影比較レンズ焦点距離とカメラ位置を揃えて撮影しています。

4. 気になった点

ここまでで、Scaniverseで3Dスキャンした部屋を用いたロケハン(というよりテストシュート的な感じか?)を試してきました。
実際の部屋に人をどんな感じで配置して、どんなアングルで撮るか、みたいなのを試したり遊んだり勉強したりする分には面白いかな、と思いつつ、実際にやってみると色々都合の悪いところも見つかりました。

4.1. Scaniverseのスキャン精度

テストシュート的に考えると、スキャンの精度はやはり足りないかもしれません。
部屋全体をスキャンするために使っているので、細かいところはどうしても粗くなってしまいます。

小さなキッチンと棚、電子レンジのような調理機器が置かれており、壁には黒いコートが掛けられている室内の3Dスキャン風画像。

よく見るとだいぶガタガタです

全体のスペース感や、アングル・焦点距離といった基本的な確認には十分な一方、もっと細かいことを考えるには精度が物足りないと感じてしまうかもしれません。
より良いスキャナーを使うのか、はたまたスキャンをもっと丁寧にやればいいだけか。
もう少し検証の余地ありです。

4.2. SALの操作性・仕様上の問題

まず、SALの仕様なので仕方ないのですが、囲まれた空間に関して、外から何も見えない・中のオブジェクトを選択できないのが辛いところです。

3Dソフトの画面で、部屋全体が灰色の立体モデルとして表示されている。左上のプレビューには椅子に座る女性キャラクターの写真が示されている。

外からは壁に囲まれて中が全く見えない

Scaniverseなどのスキャンアプリでは、閲覧時に手前側の壁が勝手に透明化されるのですが、SALではそうした仕様ではないです。
その影響もあり、カメラや照明、モデル等を配置して空間を動き回る、みたいな操作がとてもしづらく、度々壁に阻まれてしまいます。
CADのようにワイヤーフレームビューなどもないので、現時点では対策しようがないのかな、というところです。

部屋の間取りと家具が3Dスキャンのように再現されたモデルを、上方から見下ろす視点で表示している画面。机や椅子などが断片的に確認できる。

Scaniverseアプリなどでは手前側の壁が自動的に消えてくれる。
ありがたい。

それと、室内の壁等からの反射が効いているのか、よくわからなかったです。
効いてないような気がします。
天バンのようなライティングを試すには向かないかもしれません。

ソフトウェアのインターフェイスにAputure LS 12000 PROの照明設定が表示され、背景には部屋の壁際で座る女性キャラクターが映し出されている。

壁にのみ強力なライトをうっても、バウンスしている感じがしない

※ もしかしたらSALに詳しくないだけで、どこかを設定すれば解消できるのかもしれません。もしご存知の方がいらっしゃいましたら、コメントなどで教えてください。

5. おまけ:屋外シーンについて

ロケハン、と言ったら屋外のイメージも強いですが、なぜ今回屋内シーンとしたのか?それは、後日屋外用に作ったツールを紹介しようかな、とかもあるのですが、一番大きなところとしては微妙だった部分があったためです。
その微妙だった部分とは、「オブジェクトの隙間から見える向こう側に何もない状態になってしまうこと」です。

ここで試しに、オフィス近くの公園でスキャンしたデータを用いたSALを見てみましょう。

3Dソフト上で地面や木々のスキャンモデルが配置され、その手前に金髪の女性キャラクターが立っているプレビュー画面。画面右側には黒い服を着た別の女性キャラクターの表示も見える。

近所の公園のスキャンデータ
地面や木はある程度スキャンされているが、室内と違って向こう側の景色まで全てスキャンできていないので、オブジェクトの隙間から見える向こうには何もない

このように、スカスカな絵になってしまうのです。
もちろん、ここからオブジェクトを自分で追加していけば違うでしょうが、パッとインポートして使うには辛いところです。
(また、公園にある木などはスキャンには向かない物体だったというのも大いにあります)

それでは、もっと違う場面だったらどうなるでしょうか?

レンガのようなテクスチャの建物が3Dスキャンのように表現された通りに、デニムジャケットを着た女性キャラクターが立っているソフトウェアの画面。路上の照明機材らしきオブジェクトも配置されている。

アパートの前

このような建物を中心とした場所であれば、まだ大丈夫でしょう。
特に普通の建物は形状がシンプルなので、スキャンしてもそこまで崩れないのも嬉しいです。
また、屋外は室内と違って壁に囲まれていないところもありがたいポイントです。
まぁ、ありがたいとは言っても、今度は逆に太陽を含む環境光を再現しないといけない問題はあるんですけどね…

6. まとめ・感想

そんなこんなで、Scaniverseで現場を3Dスキャンし、それをset.a.light 3Dに持ち込んでデジタルロケハン・デジタルテストシュート的に使う、というのを試してきました。
まだまだ色んな改良が必要そうな様相ですが、現場を3Dスキャンしておけると何かと便利というのはあると思います。
(全然別の用途ですが、スキャンした現場をWebサイトに埋め込んでおいたりもしてます)

あと、屋内シーンのスキャンをしてSALで試してみて思ったのは、ハウススタジオとかと相性いいのではないか、という点です。
昨今、不動産サイトでは360度視点の写真がページ上に貼られていることも増えましたが、撮影目的の場所では単に見れるだけじゃなく、実際の大きさ(レンズ焦点距離との関係性)などは見たいはずです。
※ もちろん、図面を取り寄せたりして自分たちで起こすのも1手ですが、やはり手間がかかりますしね…

考えてみると、もっと良くできそうだし、もっと活用のしがいがありそうな気がしてきます。
また何か思いついたら、試してみたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回もお楽しみに。
それでは!!

あとがき(注意点)

本記事は2025年1月30日時点で執筆されています。
使用したアプリのバージョンは以下の通りです。

  • Scaniverse:v4.0.4
  • set.a.light 3D:v2.5.9g

アプリのバージョンによっては本記事で紹介した挙動と異なる場合がございます。
ご了承ください。